紗夜香の星空喫茶
 「紗夜香の星空喫茶」へようこそ!

 ここでは夜空を見るときに役立つ、ちょっとしたお話を紹介していくつもりです。これを知っていれば、田舎なんかに行って星を見るとき、お友達から感心されること、うけあいですよ。

 そろそろ秋のお月見シーズンが迫ってきましたね。今回は、この月にまつわるお話です。



 ■ 36杯目 月の大きさはどのくらい?

 そろそろお月見のシーズンですね。普段、星にあまり興味のない人でも、優しい月明かりについつい空を見上げてしまうのではないでしょうか?ウチでも以前、お月見をやりましたけど、地平線上にぽっかりと浮かぶ大きなお月様に感動したものです(^-^)

お月見風景
Fig. お月見風景
 以前、ウチでお月見をやったときにHIROPONさんが描いてくれたものです。唱歌にあるように「盆のような」大きな月が浮かんでいます。

 ところで、ここで1つ、みなさんに問題です。実際に、地平線から昇ってくる月の見かけの大きさはどのくらいでしょう?

  1. 腕をいっぱいに伸ばして眺めたときの直径30cmのお盆の大きさより大きい
  2. 腕をいっぱいに伸ばして眺めたときの直径30cmのお盆の大きさ
  3. 腕をいっぱいに伸ばして眺めたときの500円玉の大きさ
  4. 腕をいっぱいに伸ばして眺めたときの10円玉の大きさ
  5. 腕をいっぱいに伸ばして眺めたときの1円玉の大きさ
  6. 腕をいっぱいに伸ばして眺めたときの1円玉の大きさより小さい

 さぁ、どうでしょう。みなさんはどのくらいだと思いましたか?お盆の大きさ?それとも500円玉の大きさ?いえいえ、正解はなんと「6」。それも、1円玉なんかよりはるかに小さくて、腕をいっぱいに伸ばして眺めたときの5円玉の穴の大きさくらいしかないんです!

「天文学的に正しい」お月見風景
Fig. 「天文学的に正しい」お月見風景
 月を正しいスケールで描くと上のようになります。空の真ん中にポツンと見えているのが月ですが…私たちの感じているイメージとはかなり違いますよね(^-^;

 そんなのウソだ〜!と思われる方もいるかもしれませんが、今度の満月のときに5円玉を持って月の大きさと比べてみてください。地平線上にあるときも、空高くにあるときも、月はスッポリと5円玉の穴の中に収まるはずです。

 そうはいっても実際、地平線上の月は空高く昇ったときよりも、ずっと大きく見えますよね。これは大昔から人々を悩ませてきた疑問の1つで、多くの学者たちが様々な説を出して説明を試みてきました。


 まず誰もが真っ先に思いつくのは、本当に地平線上の月は大きいのではないか?ということです。

 月は地球の周りを楕円軌道を描いて回っています。そのため、月が楕円軌道のどこにいるかで地球と月の間の距離は変わります。月が地球からもっとも離れた時、月と地球の距離は40万7000km近くになりますが、もっとも近づいたときには約35万6000kmと5万kmも近くなるのです。当然、見かけの大きさも変化し、直径で比べるとなんと13%もの違いがあるといいます。

最大の満月 最小の満月
Fig. 最大の満月と最小の満月
 左は今年の6月3日(地球との距離:357248km)、右は12月27日(地球との距離:406487km)の満月です。同じ満月でもこれだけ大きさが違います。

 しかし、これは日にちを置いての話です。1日のうちにこれだけ大きさが変化するわけではありません。

 それに、月との距離の厳密な話をすれば、月が地平線上にある時よりも頭の真上付近に昇ってきた時の方が、地球の半径分近くなっていて大きく見えるはずですが…これは変化が小さすぎて肉眼では捉えられませんし、第一、地平線上の月のほうが大きく見える、というのと食い違ってしまいますよね(^-^; 月との距離の遠近で説明するのは、ちょっと無理がありそうです。

 一方、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、空気(水蒸気)で月からの光が屈折することにより、地平線近くの月が大きく見えると考えました。

 たしかに、地平線近くの天体からの光は、分厚い空気の層を通ってくるうちに屈折します。しかし以前、「星空喫茶」の第30回でこの屈折現象…「大気差」の説明をしましたが、この屈折は天体が実際の高さより浮き上がって見えるように働くだけで、決して虫眼鏡のようなモノが拡大されるような屈折ではありません。

 ただし、地平線近くの月や太陽が上下に潰れた形に見えるのは「大気差」のせいです。月や太陽の下側の方が、より強く大気差の影響を受けて浮き上がって見えるためです。


 第一、先にお話した5円玉の穴と月の大きさを比べる話の通り、月の見かけの大きさは地平線上でも空高くでもまったく変わりません。というわけで、これらの説は無視してしまってもよさそうです(^-^;


 実際の見かけの大きさが変化していない以上、地平線上の月が大きく見えるのは、なんらかの「錯覚」が働いていると考えてよさそうです。

 この説明の1つとしてよく引き合いに出されるのが「ポンゾ錯視」という錯覚の一種です。です。これは逆V字形に引かれた線の間にモノを描くと、上に描いたモノの方が下に描いたものより大きく見えるという現象です。

ポンゾ錯視
Fig. ポンゾ錯視
 上下の横線の長さは同じですが、明らかに上のほうが長く見えます。

 これは2本の斜線が遠近法的な手がかりとなって、画像に奥行きを感じさせるのがカギと考えられています。つまり、普通は遠くにあるものほど小さく見えますから「遠くにあるものが手前のものと同じ大きさに見えるということは、遠くのものの方が大きいはず」という判断が無意識のうちに働き、上に描かれた横線を大きいものとして認識してしまうのです。

 これと同じことが、地平線近くの月でも起こります。地平線近くの月を見るときは、地上の風景も目に入ります。その結果、地平線近くの月は遠近法的に地平線の向こうにあるように感じられ、大きく見えるのです。

 さらに、地上には月までの間に建物や木など様々なものがありますので、これも奥行きを強調する要素になります。加えて、地平線近くに小さく見える建物や木と月とを比較することになりますから、余計に大きく感じるのでしょう。

 雲なんかがかかっていれば、空自体にも遠近感が生じるのでなおさらでしょうね。


一方、空高くに昇った月は、周りに遠近の手がかりとなるものがありませんから、距離感が強調されず、それほど大きくは見えないのです。

地平近くの月 空高く昇った月
Fig. 地上風景の効果
 一方を隠しながら左右の図を見比べると、わずかですが左側の図の円の方が大きく見えます。2つの図は、月の位置以外はまったく同じですので、純粋に地上の遠近感の差だけでこれだけの差が生まれたことになります。


 また、月を見る姿勢も、月の大きさの感覚に大きな影響を与えることが知られています。地平線近くの月を見るときは、頭は直立し、目は地平線方向を向いています。しかし空高く昇った月を見るときは、頭を上に傾けるか、目を上に動かします。原因はハッキリとはしていないようなのですが、このような姿勢で月を見ると、確かに小さく見えるのだそうです。私も経験があるのですけど、姿勢を90度傾けて、仰向けに寝た状態で空高く昇った月を見ると、それほど小さくは見えません。また、この状態で地平線近くの月を見ると、普通の姿勢で見たときより小さく見えるということです。

 さらに、精神的な要因も大きいようです。例えば、初心者や女性、芸術家肌の人は、地平線上の月をより大きく見る傾向が強いそうです。地平線上に昇ってくる月をあまり見たことがなければ、その様子は強く印象に残るでしょうし、雲間から昇ってくる月を見て、美しいと感動することもあるでしょう。みなさんも経験があると思いますが、このような強く印象に残った出来事というのは、実物よりも大げさに記憶されがちです。こうしたことも、地平線上の月が大きく見える原因でしょう。

 とはいえ、地平線近くの月が大きく見える現象が、これですべて説明できたわけではありません。疑問自体は誰でも思いつく素朴なものですけれども、完全に説明するためには生理学や心理学の側面から、まだまだ研究が必要なようです。

 …というわけで、今回はここまで。また次回お会いしましょう♪

※本ページ中の星図は株式会社アストロアーツ制作「StellaNavigator Ver.6.1」(アスキー出版局)を用いて作成しました。



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